夕と闇

本と旅と日々の暮らし。あわいに消えていくものたちの記憶。しんしんと降り積もる。

『テキスト9』 小野寺整

毎回毎回「面白かった」で申し訳ないけど、この本もかなり面白かった。

というか、この年になると、そんなにハズレ本引かないよねえ…。

というか、つまらない本最後まで頑張って読まないよねえ…。時間もったいないし。

 

説明するのが難しい。

途中、闇鍋みたいだなと思った。ジャングルのところあたり。それぞれの具材が存在を主張していて食べ応えがあるけど、全体として、闇。カオス。ごっちゃまぜ。

自己言及的、っていうのかしら。

変なところで、変なところとリンクしてる。ぐちゃぐちゃで、構造をとらえきれない。

 

少し、北野勇作を思い出したよ。

なんか良く分からないんだけれど、話の展開に、説得力がある。論理を超越した何か。北野勇作ほど、感情に働きかけてはこないけれども。 もっと論理的で無機質な感じ。主人公のカレンみたく、感情をコントロールした感じ。

 

うーん。

雰囲気としては『不思議の国のアリス』に近い?

不思議の国のアリスで、同じ役者が何度も別の役で出てくる感じかな。で、このキャラとこのキャラは実はこういう繋がりがありまして…というのが、ばんばん出てくる。こっちの理解が追い付かない。

キャラだけじゃなくて、世界ぜんぶが入り組んでいる。

 

なんか、全体的に「とりあえず意味重視で日本語に翻訳してみましたー」みたいなスタンスなんだけど、さりげなく(本書中の意味ではなく、一般的な意味での)人外な感じの身体の描写がされていたり、細部まで妙なリアリティがあった。

 

まぁ、うまく説明できないけど、すごかったよ。

 

第一回ハヤカワSFコンテスト最終候補作、ってことだけど、大賞を獲った『みずは無間』より好きかもしれない。次作も読みます。

 

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テキスト9 (Jコレクション)

テキスト9 (Jコレクション)

 

 以下、Amazonより。

 

惑星ユーンに暮らす老物理学者サローベンとその愛弟子カレンの壮大な旅路は、超権力組織ムスビメ議会の召喚状から始まった。議会の本拠地である地球を訪れたカレンは、宇宙を脅かす超テクノロジーの設計図を盗んだ女の追跡を依頼される。潜入先の惑星タヴで、カレンは未知の言語を操る猿に遭遇し―感情操作薬エンパシニック、謎の言葉トーラー、囚人船ユーツナル号、知性進化系統樹、金融を可視化したスタッシュ…その独創的すぎる内容で選考会でも物議を醸した、世界の在り方を問い掛ける要約不能の超傑作。第1回ハヤカワSFコンテスト最終候補作。

 

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それから、第一回ハヤカワSF大賞受賞作、『みずは無間』。

こちらはこちらで、面白かった。

みずはの痛々しい描写が、生々しくて。

 

 以下、Amazonより。

 

土星探査というミッションを終えた俺は、やがて太陽系を後にした―予期せぬ事故に対処するため無人探査機のAIに転写された雨野透の人格は、目的のない旅路に倦み、自らの機体改造と情報知性体の育成で暇を潰していた。夢とも記憶ともつかぬ透の意識に立ち現われるのは、地球に残してきた恋人みずはの姿だった。法事で帰省する透を責めるみずは、就活の失敗を正当化しようとするみずは、リバウンドを繰り返すみずは、そしてバイト先で憑かれたようにパンの耳を貪るみずは…あまりにも無益であまりにも切実な絶対零度の回想とともに悠久の銀河を彷徨う透が、みずはから逃れるために取った選択とは?第1回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作。