夕と闇

本と旅と日々の暮らし。あわいに消えていくものたちの記憶。しんしんと降り積もる。

『何者』 朝井リョウ

『何者』、読んでみたー。

 

読み終わった後、最初の感想は、「ずるい」だった。

この終わり方は、ちょっとずるい。

最後に観察者たる語り手を否定することで、どんでん返し的な流れを作っているんだけど、それがちょっと鼻につく。

「語り手に共感して読んでたでしょ? ふふん、俺はもっと上にいるんだぜ」みたいな作者の声が聞こえる感じ。

 

小説書く人は、基本、観察者だと思うので(このことについては、あんまり例外が思い浮かばない)、わたし的にも痛いところがあり、それはたぶんこの作者も同じで、だからどんでん返しを用意して自分を守ってるんだね感が多分にありました。

俺はこいつとは違う、みたいな。

 

でも、面白かった。

意識高い(笑)な人の描き方が、リアルすぎる。

ツイッターとの距離感とか。

わたしも結構真面目に就活やったので、懐かしかったところもあり。いろいろやって、結局推薦で就職したクチですけども。 

 

この人は、あくまで、「いつか何者かになれる」「自分は他の人とは違う」と根拠なく思っている人たちを否定したいみたいだけど、自分の人生が自分にとって特別なのは当たり前じゃん?

どうせ百年後には、誰しも現実という淡い夢から目覚めるんだよ。

どこから来て、どこへ行くのかも分かっていないのに、このひとときの夢の現実で信じていることの何を否定するの?

そこに何の意味があるの?

能動的に自分の意志で生まれてきた人なんていないし、夢の中で、主体的であろうがなかろうが、大した違いなんてないんだと思う。

結局、本人が楽しいか楽しくないか、だけじゃないかね。

 

描かれる世界の狭さと価値観のばらつきのなさが、この人の特徴か。

 

いろいろ書いたけど、読んで良かったと思う。

他のやつも読もうっと。

 

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何者

何者

 

 第148回(平成24年度上半期) 直木賞受賞 

影を宿しながら光を探る就活大学生の切実な歩み。あなたの心をあぶり出す書下ろし長編小説。